お店について 2020.04.23

今、地方都市の青果流通の現場で何が起こっているか。実情と推測。

2020年4月23日木曜日です。

新型コロナウイルスの影響で社会が激変しました。という書き出しで始まる文章が溢れかえっていますね。私は京都の中央市場の場外売店という立場で八百屋をしています。間違っていることもあるかもしれませんが、僕の目線で何が変わったのかを書き留めておきます。地方都市の青果流通はどうか、というタイトルで書き始めたら話がそれまくりました。こういう文章を出したらどういう反応が返ってくるか興味があるので書いてみました。あと、自分の思考実験のための推測も混ざってますのでご容赦ください。

 

【商売の変化】

●BtoBビジネスの大規模縮小

京都市は全国8位の人口を誇る政令市であることに加え、活況であったインバウンド需要に伴って、飲食事業を営む事業者さんは活況であったと思います。ところが、2月から中国人観光客が激減したことで徐々にトーンダウン。それでもまだ日本、特に京都は感染者も少なく大丈夫かな?と騙し騙しみんな外食を続けていたものの、3月末の京産大の学生の陽性判明で一変。

徐々に自主的に閉店されるお店が増加。そして、緊急事態宣言発令が目の当たりになったあたりで、閉店するか、テイクアウト販売に舵を切るかの二択に迫られたという状況でしょうか。飲食店さんの売上が減少すれば、当然BtoBに頼っていた納品事業者の売上も落ち込むことは当然で、うちも当然BtoB売上は急減し、3分の1以下というのが現状です。

(しかし、馴染みの飲食店さんをどうサポートすればいいか、なるべくテイクアウトで購入するようにしていますが、難しい課題です。飲食店さんも大変な中、地道に常連のお客さまにご商売をされていた方は広く支援の手が回っていくのではないかそうあってほしいという思いが強くあります。)

 

●BtoCビジネスの急激な活況

▼店舗への来客増

一方で、人間飯を食わないと死ぬわけですから、外食をしないということは家庭での食事が増えるということで、店舗小売は空前の活況です。ドラッグストアの大幅な収益増はニュースになっていましたが、食品小売事業者も間違いなく収益増になっていると思います。うちは特に半屋外というか、全く「密」にならずパッと買い物を済ませることができる店なので、スーパーなどの閉鎖空間に行くことを敬遠されているお客様が新規で来店されていることもあり来客数が大幅に増えています。

知り合いの他の八百屋さんも年末より忙しいとのことで、うちに限らず店舗小売の需要が増えています。

 

▼通販事業の大幅な需要増

また、ポケットマルシェ、食ベチョクなどの産直ECサービスも売上が急増していると聞いています。オーガニック野菜の通販事業を手掛ける坂ノ途中さんもサンプル受注を一旦取りやめられるほどの受注増ということを伺いました。

外出自粛を求められても、生活のために買い物は必要になりますが、外出しなくても、あるいは自分で買いに行くよりもむしろ持ってきてもらったほうが充実した食材が手に入るサービスは今後も急拡大することは間違いないですね。うちのような零細店舗でさえ、野菜の配送依頼は急増していますし、今後も増えるものと確信しています。

※配送には、私が自分で届けることも、配送業者さんに運んでもらうことも含みます。

 

●市場はどう変化したか、その実情

▼市場の野菜、果物はどう動いているか

実情、とか書いておいて、市場の荷受け会社や仲卸さんで働いたことは無いので本当のことはわかりませんので、聞いた話と見た話です。市場流通については、社会インフラとして食品流通の根幹ですから止まるわけもなく、止めるわけもなく、粛々と運営されている、という印象です。

特に3月4月は、京都滋賀の野菜というのは端境期に入りそんなに入荷が多いわけではないので、飲食店需要が減り、給食需要が減ったからといって野菜が余りまくったとか、そういうこともなく、余っていたとしてもいつもどおり、という印象です。つまり、市場に出荷されている農家さんも荷動きが鈍くて値段がつかないとか、出荷停止になって売上が減ったとか、そういうことにはなっていないのではないでしょうか。たけのこや山菜、ハーブなど、家庭消費よりは外食での消費の方が多そうな野菜は安値傾向で余って困った…ということは多分にありますが、家庭消費に需要のある一般野菜は端境期ということも相まってむしろ高値がつくこともありました。
(今週から急にまた新玉ねぎと新キャベツ値下がりしました。これまでは局所的な出荷だったのが、全国的な出荷に変わったからでしょうか?新玉は淡路産、新キャベツは京都滋賀県がでてきたからかと予想)

外食できない分、家でちょっとした贅沢を、という思考になるのか果物もよく売れています。今の時期だと柑橘かいちごくらいですが、市場出しのいちご農家さんは結構儲かってるんじゃないですか?

 

▼仲卸さんはさまざま

仲卸さんと言っても、京都の市場だけでも60軒くらいあるのでさまざまですが、大規模外食産業向けに多く卸をされている仲卸さんはなかなか厳しい状況で、スーパーなど小売業者向けに多く卸されている仲卸さんは忙しくなっていて、悩ましい状況が続いていると感じます。(これ以上は踏み込みづらい)いつもお世話になっています。仲卸さんがあるから、野菜、果物の流通が円滑に回っているのです。

「市場動いてるんですか?」って「高菜食べてしまったんですか?」的に聞かれることがあるのですが、市場が止まるということは日本の野菜の供給がストップするということなので、絶対に止まりません。止まったらパニックどころではすまないです。

 

●農家さんの影響はどうなのか、推測

私は市場での買付の方がおおいので、農家さんとのコミュニケーションはそこまで多くないので、最近ちょろっとお話したり、SNS見たりしての推測です。

▼BtoBメインの農家さんはどうですか?

まず、農家さんといってもこちらもさまざまなわけですが、BtoB一辺倒だった農家さんはおそらくご苦労されているだろうなと思います。飲食店さんにむけて、こだわりのちょっと珍しい野菜を作っていた、給食事業者と連携した生産に特化していた、こういった、BtoB専業農家さんは売り先がなく困られているだろうと感じます。給食関係に納品されていた農家さんは今も野菜余りで困られている様子を拝見します。給食関係は、3月に自治体主導での即売会が開催されたり、前述したポケマル、食べチョクなどの産直ECサービスがフードレスキューのキャンペーンを張って積極的なプロモーションによって売り先を開拓されているのはリスペクトとともに、今この状況でサービスが整っていてよかった、と安心感を覚えることもあります。(5年前ならなかったわけですから!)

東京では豊洲市場ドットコムという会社さんがTwitterをフル活用して、市場流通過程で余っている食材を野菜果物鮮魚問わず捌きまくっておられまして、個人的には一番凄まじい獅子奮迅の活躍だ、と拝見しております。

今後も突発的な需給バランスの欠落は常に発生すると思いますが、こうしたフードレスキューが保険的に機能するのはとても望ましいことだと感じました。また、現状は端境期であることから地場農家さんからそういった声は上がっていませんが、我々京都の八百屋も地場農家さんで今後こういったことが起こった際に、フードレスキュー的なセーフティーネットを張れるよう、共同戦線を組んでおくことがものすごく大事ではないかと感じました。(実は既に組んでいますが)

 

▼BtoCメインの農家さんはどうですか?

今も今後も、求められるもの量が増えると思います。今後外出が許容されたとしても、家庭で健康的な食生活を送り、免疫力を高めることの重要性が植え付けられ、より家庭でも品質の良い野菜の需要が増すと思います。今も、家庭用に個配されている農家さんなんかは新規顧客からの注文がまちがいなく舞い込んでいるはずです。大きな社会変革が起こっていると思います。

ただし、あくまで一般家庭ですから、珍しい野菜よりは一般的に調理に慣れている野菜の方がより求められるのではないでしょうか。BtoCメインの農家さんも小さなレストランのシェフの方から珍しい野菜ありませんか?って聞かれることきっと多かったと思います。僕もそうで、珍しい野菜を必死に探すのが常だったんですが、いつもの野菜をよりよい状態で、というのがより求められるようになる気がします。

 

●この後、青果流通はどうなるのか?

いつまでも外出自粛が続くわけがなく、いずれどこかのタイミングで外食が許容されると思いますが、恐らく1〜2年は外食を控えたいという潜在意識が働き続けるように思います。(関東の野菜が敬遠されたときのように)

また、健康、免疫向上に照準が合わさり、家庭で健康的な食生活を送ることに価値を置く人が増えると思います。(既に増えています。そういえば納豆が免疫力向上に良いので爆売れして品薄になったなんて話もありました。)繰り返しになりますが、「一般の人向けの、品質の良い野菜」の需要が増えると思います。外食産業もテイクアウト、ケータリングにシフトしていますが、お弁当とかで珍しい野菜は使いにくいと思うので。調理方法に馴染みのない野菜ではなく、糖度の高いトマト、太いアスパラ、柔らかいキャベツ、など「良い」ということが「わかりやすい」野菜のことです。

栽培方法に関する要請(主に農薬を使っているかどうかについての要請)は震災以降ほどの変化は求められない気がします。引き続き、同じ志向の方が同じように求められる、というイメージです。それよりは安定的に質の良い野菜を定期的に入手できる体制を整えたい、と考える人が増えるのではないでしょうか。レジャーにお金を使えない分、食にお金を投じる人は増えるでしょう。

そうなると、農家さんから直接購入したいという人はさらに増えるでしょうし、ポケマル、食ベチョクなどの産直ECサービスは今後もどんどんユーザーが増えることは間違いないと思います。
ドライブがてらの直売所や産直市場での買い物がさらにレジャー化するでしょう。

野菜の流通については、今は売れてる野菜と売れてない野菜とで二極化していますが、市場は社会の変化に合わせてうまく変容すると思うので、社会情勢にあわせて上手く需給バランスをとっていくと思うので、野菜余って大変、みたいな状況はそんなに深刻にならないと思いますが…

●野菜のギフト化

そういえば私は、地域産品をカタログギフトにして送り合い、地域経済を循環することを目的とする会社で働いていました。困っている人に野菜をプレゼントするという需要も増えるかもしれません。
既に都会から脱出できないこどもに野菜を送りたいというお客さまから野菜を送ってほしいという注文も何件か入っています。今後社会が変われば親子関係ではなく、買い物に行けない人同士が野菜を送りあうという文化が始まるかもしれません。

 

しかし、こうなると日本の命運を握るのは、ITエンジニアの方と宅配ドライバーの方なのではないかという考えになりますね。

 

●八百屋はどうなるのか?

産直ECサービスアプリのターゲット顧客って基本的に「ネアカでコミュニケーション好き」な人向けのサービスで、そういうコミュニケーションが面倒、普通でいい普通がいい、という人向けに黙って買い物できる八百屋の強みがあるので、これまで特段儲かりもしないのに地道にお客さまとやり取りしてきた小売八百屋は今後も引き続き、お客様の需要にあわせてがんばらないとなという感覚です。
また、その日採れたものをその日に売れる(まあ、うちは市場の近郷セリで手に入るものだけですが)鮮度勝負は、配送サービスよりも強いので、その日仕入れたものをその日に売れる八百屋さんの強さはより際立つように思います。

個人的には、機械を売るより野菜を売ったほうがより人の役に立てるのではないか、という思いで八百屋の跡継ぎを決意しましたが、社会インフラとしての役割がより高まったのではないかと勝手に使命感を高めています。
BtoBだけでなく、BtoCもやるという事業ポートフォリオを組んでいて良かったな、という思いもあります。自営業になってから、売上を分散させることはかなり意識的にやっていましたが、これに関しては現状功を奏したなと思っています。
人間どんな状況になっても野菜を食べないと生きていけないですし、生きる源であるものを商売にさせて頂いているという使命感が湧いています。
この後どのような社会に変わっていったとしても、八百屋として社会に求められる仕事に取り組んで行ければと思います。

東京のお客さまから、こういうときなので家で料理を楽しみたいので、おいしい京たけのこを送ってほしいということで、旬の野菜を詰め合わせてお送りした所、料理された写真を送っていただきました。
野菜を食べてもらうことで心も体も豊かになってもらうことが八百屋の使命であり本質ですね。